髪結いの亭主

髪結いの亭主 [DVD]

髪結いの亭主 [DVD]

もう何回も観ている大好きな作品。急に観たくなりレンタル。内容を簡単に言えば理髪店で働く女性に恋をした男の話。
物語の舞台となる場所はほとんど理髪店の中のみ。その箱庭的ともいえる世界の中で、特に劇的な出来事が起こるわけでもなく、淡々としたそれでいて濃密な二人の生活が描かれているだけ。お店に来るお客さんとのやり取りも面白いけれど、一番の見所はお互い以外には他人を必要としない、という二人の姿勢だと思う。自分を本当に理解してくれる人が一人だけいればそれで幸せ。そう考えている者同士が他人に干渉されることなく二人だけの世界を築き暮らすこと、それはある意味理想の世界だと思う。
ただ、やはりそういう世界は長く続くことはなく、物語の最後で結局女性はその世界から出て行ってしまう。残された男は帰ってくるという核心もないまま、いつまでも店で女性を待ち続ける。これがハリウッド映画だったら、再び女性が戻ってきて、いつまでも仲良く暮らしました、という結末になるのだろうけれど・・・。やはりこういう終わり方の方がリアリティがあるような気がする。
毎回この結末を観て感じることは、男というものは恋愛に幻想というものを持ってしまう生き物なのかもしれない、ということ。微妙な考え方のズレに気づくこともなく、自分の創りだした居心地の良い幻想の世界に閉じこもってしまう。だからこそ、この映画の男も何故女性が出て行ったのか理解できないし、いつまでも女々しく帰りを待ち続けているのだろう。
ただ、自分はどうしてもこの男に感情移入してしまう。それは自分もそういう関係を理想だと考えているから。そんな関係は長続きしないと分かっていても、どこかに同じ事を考えている人がいる、と考えてしまうのは自分のエゴなのだろうか・・・。